はじめに

だけど、あなたは知らないでしょう、アイン・ランドなんて。アメリカの有名出版社ランダムハウス/モダンライブラリーが、1998年に「20世紀の小説ベスト100」の一般読者投票結果を発表したんだけど、ランドの小説は、第1位と2位と7位と8位を占めた(こちら)。同じく一般読者投票による「20世紀のノン・フィクション、ベスト100」でも、ランドのエッセイは第1位を獲得してる。まだあるぞ。1991年に、国会図書館(The Library of Congress)とブック・オブ・ザ・マンス・クラブ(the Book-of-the-Month Club)は、共同で「あなたが人生で最も影響を受けた本」の読者調査をした。第1位が聖書だったのは、まあありそうなことだけど、第2位が、ランドの大長編小説『肩をすくめたアトラス』(Atlas Shrugged)だった。すごいですね。聖書の次ですよ。

実は、私もこの作家を知ったのは、2001年1月のこと。つい最近。勤め先の大学から1年間の在外研究休暇をもらって、ニューヨークにいたときのこと。私は、やたら摩天楼、つまりスカイスクレイパーが好きです。超高層ビルの風景が好きです。しみじみ好きです。関連の本や写真集けっこう持ってます。で、真冬のシカゴにシカゴ名物スカイスクレイパーを観に行った。ついでにフランク・ロイド・ライト(明治村にある帝国ホテルや、あの竜巻きみたいなグッゲンハイム美術館を設計した天才的建築家の家とか仕事場も観に行った。雪が積もっていて寒かったぜ。

で、シカゴからニューヨークに帰る飛行機の中で読んでたのが、副島隆彦さんという政治思想研究者で評論家の方の『世界覇権国アメリカを動かす政治家と知識人たち』(講談社、1999年)という文庫本。そこでアメリカの「リバータリアニズム」という政治思想潮流形成に大いに影響した作家として紹介されていたのがランド女史。一応、アメリカ文学研究者のつもりだったけど、私はこの作家を全く知らなかった。文学史にも載ってない(2001年晩秋にわかったけれども、コロンビア大学版アメリカ文学史には載っていた。たった1ページ半。俗悪大衆小説作家とか書いてあった・・・別にいいけど・・・)。で まず『水源』(The Fountainhead)を取り寄せて読み出した。ぶっとんだ。寝食忘れて読みふけった英語の小説なんて、自慢じゃないけど、それまでの私には1册もない(ほんとにアメリカ文学研究者か?)。だけど、これはもう本当に面白かった。ドキドキしながら、ハラハラしながら、泣きながら読んだ。こんなに感情移入できる主人公たちが登場する小説は初めてだった。しかも、主人公はスカイスクレイパーの建築家だった!!これは、偶然とは思えない!偶然かもしれないが、勝手に因果関係を想定してしまうぞ!真冬のニューヨークの空の下、40代の私は、漫画家になりたくて漫画ばかり読んでいたガキの頃にもどったように、ランドの小説を読みふけった。主人公たちみたいに生きたい!と思った。主人公たちみたいに、人生を、生きることを愛そう!と思った。ランドの小説読んだら、もう小説なんか読まなくてよろしい。時間の無駄だ。歴史や政治や哲学(法)の本を読もう。

というわけで、この作家の作品やこの作家の研究書を買いまくって集めまくって読みまくって、論文書きながら、今日にいたるわけです。まだ1年も経ってないんだけどさ。2001年の夏の終わりには、ランドの墓参りにまで行ってしまった。ランドが私を呼んでいる。と勝手に決めた私。アメリカには有名人の墓のある場所検索サイトがあるし。

小説ばかりでなく、おいおい彼女の哲学エッセイなんかも紹介していきます。いずれは、このHPを、彼女の哲学や政治思想もふくめたサイトへと発展させたい。その頃には、日本に「アイン・ランド学会」が設立されていることでしょう(かな?)。ただし、私は、ランドを教祖にしてあがめるような「カルト趣味」はないからね。ランドという作家/思想家は、毀誉褒貶も激しく評価もいろいろです。実は危険な作家です。実は、かなりうさんくさい作家です。でも、作家の作品に振り回されるとしたら、それは読者が馬鹿で危険でうさんくさいからさ。自分で自分の方向を選ぶんであって、人のせいにしないように。洗脳されたりマインドコントロールされるのは、純粋ではないの。単なる馬鹿。私、とても馬鹿な人間だから、それは身に沁みてわかる。

このサイトは、「研究会」と称しているけれど、当分は、気楽な「アイン・ランドのファンクラブ」のノリでやっていきます!ランドに関して私が書いた論文(ランド関係ではないのも混ぜた!)や、ランドに関する雑文や、そうでもない雑文などのコーナーもあります。硬いものから柔らかいものまで全編ランドね。このサイトを卒論や修士論文に使う方は、ちゃんと出典を明らかにして下さいね。そういう方々、ご相談にのりますよ〜〜。