『若草物語  シリーズもっと知りたい名作の世界1』〔2006年2月〕
348×500
『若草物語  シリーズもっと知りたい名作の世界1』高田賢一編著
ミネルヴァ書房 2006年2月 税込2100円
★ Louisa May Alcott(1832-88)のLittle Women(1868)は、明治時代に翻訳されてから、『若草物語』として日本の少女たちにも愛読されてきました。ちょっと前までは、女の子ならば必ず読むというアメリカ児童文学の古典でした。いまどきは、アニメでしか知られていないようですが。私が、生まれて初めて読んだアメリカ文学というのも、この作品でした。
★ 本書は、この古典を現代の諸問題から再考した論文集です。19世紀の名作の21世紀からの読み直しです。いろいろな図像や資料がついた「お楽しみ版」でもあります。広く一般読者向けに編纂されていますので、読みやすいです!私も、以下のような小論を寄稿しています。

第八章  欺瞞なくして中流階級の娘は生き抜けない
『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』から照射する『若草物語』

一 呼応しあう過去と現在の物語

『若草物語』の持つ「中流階級の娘のためのガイドブック」的側面は、すでに批評的前提である。バーバラ・ズィッカーマンが指摘したように、この小説は、良き古き時代のアメリカ中流階級家庭の生活の記録として、愛読されてきた(1--六五〇頁)。移民の娘たちにとっては、アメリカの中流階級の娘はどうあるべきについて教えてきた(1--六五二頁)。この小説は、二一世紀も「中流階級の娘」のためのガイドブックであり続けるだろう。私にとって、そのことを再認識させるきっかけとなったのは、一九九三年に発表されたジェフリー・ユージェニデス(Jeffrey Eugenides 1960--)の『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』(The Virgin Suicides)だった。

一九七〇年代前半頃を舞台にした『ヘビトンボの季節に自殺した五人姉妹』が提起する問題は、南北戦争時代を舞台とした『若草物語』と同質のものである。「中流階級の娘」が、この二作品に共通する問題系である。一九世紀の『若草物語』のマーチ姉妹は幸福な人生を獲得するのに、二〇世紀末の『若草物語』のリズボン姉妹は自殺する。リズボン姉妹とマーチ姉妹の違いは何か?マーチ姉妹にあって、リズボン姉妹になかったものとは何か?それこそ、中流階級の娘が自らの経済的社会的文化的布置の傷つきやすさ(vulnerability)の抑圧を生き抜くために必要なものなのだ。

(高田賢一編著『若草物語  シリーズもっと知りたい名作の世界1』p.104より。藤森かよこの論文から抜粋)

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