アキラのランド節

続々・留学生たち(その1) [02/19/2008]


アメリカの大学に留学している桃山の学生さんが、「ランド節の更新を、結構闇で、まだかまだかと待ってるですよ」と、メイルに書いてきてくれました。ありがとうね。「結構闇で」というのは、若者語で、「内心では」とか「密かに、ほんとは」とかいう意味らしいです。

豚も、おだてれば木に登る。フジモリも、おだてれば、ランド節をもっと書き、ついでに痩せて記憶力も高まり前頭葉も活性化する。神様も、おだてて、いつも「ありがとうございます」と言っていれば、あなたの運が良くなる。ブラジルの予言者のジュセリーノが、2008年夏の日本の気温は摂氏43度から45度になると言っても、9月に中国で大地震が起きて100万人が死ぬと言っても、2009年1月25日に大阪に大地震が起きて50万人が死ぬと言っても、将来は、水不足と食糧不足で日本はとんでもないことになると言っても、自分と家族と友人知己同胞は生き残る。

かなあ・・・・

まあ、自分に都合のいいことを黙って信じていることにカネはかかりませんから。いまどき無料でできることって、税金もかからないことって、心のコントロールだけですから。経済的で、情緒安定に効果があり、かつ誰にも迷惑かけないですから。政府の売る国債や保険会社や銀行やファンドを信じるより、はるかに安全確実元金保証ですから。

学期末試験答案採点&成績報告をすませ、入試も、あらかた終わりました。定員割れの私立大学も多いのですが、ありがたいことに桃山学院大学は大丈夫です。私がいる限り大丈夫です・・・という根拠も何もないメチャクチャな確信はどこから来るのか?そう、空を越えて、ラララ〜〜星の彼方から。

今日のランド節は、今までランド節に書かなかった別の留学生さんたちのことを、書きます。私は、記憶力は最低です。何でも忘れます。記憶力に関してはガキの頃からすでに老化していました。しかし、今年度に知り合った留学生さんたちのことは、忘れるには惜しいので、ここに書いておこうと思います。ヤマもなく、オチもなく、意味もなく、ただ箇条書きみたいに書きつらねます。

(1) 共通特別自由講義科目「日本アニメの諸相」受講生たちの場合
私が秋学期に担当していた留学生対象に英語で講義される「日本アニメの諸相」の受講生が提出したレポートの中で、ダントツに良かったのは、名門ウイーン大学の日本語学科から来たオーストリア人女子学生のものでした。私は、彼女が提出した手塚治虫の実験作『ある街角の物語』(1962)に関する学期末レポートに100点満点の120点をつけました。

やっぱり、ウイーン大学って、すごい大学なのですね〜〜学生さんも優秀なのですね〜〜学部の学生が、ああいうレポート提出できるんだから・・・

このクラスでは、「鳥獣戯画」や「黄表紙」から、大正期の日本アニメ、戦前戦中の日本アニメから、戦後の東映アニメ、手塚治虫、宮崎駿、大友克洋、押井守の代表作までを概観します。日本アニメの20世紀の歴史を、全部で14回しかない講義の中で、疾走します。目的は、日本アニメから漏れ出る日本人の欲望と夢を抉り出すというものです。

世界初のアニメーション・フイルム製作は1902年とも1914年とも言われていますが、要するに、アニメも100年近くの歴史を持っていますから、アニメのcanonといいますか「古典」「名作」というものの蓄積もあるわけです。昭和末期および平成生まれの大学生さんたちは、聞いたことはあっても、『鉄腕アトム』も『リボンの騎士』も『火の鳥』も知りません。1980年代の傑作『AKIRA』や90年代の傑作『攻殻機動隊』も知りません。せいぜい、宮崎駿のアニメぐらいです。日本アニメ、日本アニメといいながらも、日本人自体が、あまり日本アニメについて知りません。まともに鑑賞していません。ましてや、生まれてから20年くらいしか経過してない大学生は、何も知らない。

だから、まあ「日本サブ・カルチャー探検」情報提供としての、この種のクラスも意味はあるわけです。大きなスクリーンが設置された教室で『AKIRA』なんか見せますと、日本人学生さんはびっくります。あのエネルギーはすごいからね。90年代末期からの日本アニメからは、消えてしまったエネルギーです。血をザワザワと騒がせ、身体を熱くさせるエネルギーです。「なんか、見ると元気が出るみたいなアニメですね〜〜」と2年生の女子学生が言っていたが、ほんと、アニメだからこそ可能な表現であり、テーマでしょう〜〜あれがアニメだ!!

桃山にやってくる留学生が日本に来た理由の大きな一つが、「日本アニメ」です。ですから、彼らや彼女たちが日本アニメに関して持っている情報量はすごいです。

100点満点120点のレポートを書いた、この名門ウイーン大学の日本語学科から来たオーストリア人女子学生が、ある日私に質問しました。「黒鉄ヒロシ」のアニメはないでしょうか?調べたのですが入手できません、と。黒鉄ヒロシ??クロガネ・ヒロシ??くろがね・ひろし??彼女は、黒鉄ヒロシ作の新撰組に関する漫画本を広げながら質問してきました。

「黒鉄ヒロシの作品はアニメになっていないと思うけど・・・漫画自身が、相当にマニアックな読者しか想定していないし・・・アニメにはなっていないでしょう・・・まあ、私も調べてはみますが・・・」と、私は答えるしかありませんでした。私が調べたかぎりでは、黒鉄ヒロシの作品のなかでアニメ化されているものは見つかりませんでした。しかし、彼女は、「ウイーンの私の教授が黒鉄ヒロシのアニメがあるって、言っていたのですが・・・」とこだわっておりました。

後で聞いたところによりますと、彼女は大の「新撰組」フェチなのでした。交換留学生用アパートメントの部屋の壁には、「誠」が染め抜かれた水色のキモノ・ジャケットというか羽織がタペストリーのごとく飾られているそうです。京都に行くと、「新撰組グッズ」を買い集めているんだそうです。「新撰組グッズ」って、どーいうもの?寺田屋襲撃記念Tシャツとか、新撰組ロゴつき携帯電話ストラップとか、『壬生義士伝』クッキーとか?

私は、「こんなんでよかったら見る?」と言って、自分が持っていた『土方歳三 白の軌跡』(2004)というアニメのDVDを差し上げておいた。土方歳三でよかったのかな。だって新撰組ならば、土方歳三だろ〜〜やっぱり〜〜でも、若い彼女は沖田聡司ファンかもね。マニアックだから、芹澤鴨とか吉村貫一郎とかね。まさか、斎藤一だったりして・・・まさかまさか、彼女は、往年の新撰組連続ドラマ、懐かしの栗塚旭の『新撰組血風録』DVD全巻の所持者だったりして・・・世界は広い。いろいろな人がいますね。

このオーストリアはウイーン大学の女子学生さんの次に高得点のレポートを書いたのは、もうひとり同じウイーン大学から来た男子学生でした。彼の得点は100点です。今敏(こん・さとし)演出のPerfect Blue(1997)というアニメの秀作を分析していました。江口寿史、あの『ストップ!ひばりくん』の江口寿史がキャラクター原案しているだけのことはあって、ヒロインの女の子の造形がキュートでスウィートです。

江口寿史さん、知りませんか?1970年代にブレークし始めて、80年代には、じょじょにおかしくなってきて、つまり「白い象が来る〜〜?!」という幻想に悩まされて、せっかくの人気沸騰漫画の連載を中止&休止するんで有名(?)だった鬼才漫画家の江口寿史さんです。ファミレスの『デニーズ』のメニューのキャラクターデザインもしていたなあ。私は、彼が造形するカッコ良くて可愛い女の子が好きだ!

このウイーン大学の男子学生は、いかにも「東欧のオタク秀才青年」って感じです。若いのに髪が薄いところに風格が漂っています。はげてもカッコ良くて、優雅です。でもって、「萌え系」アニメのファンのようです。今敏の一連の作品、『東京ゴッドファーザーズ』(2003)『妄想代理人』(2004)『パプリカ』(2006)がお気に入りのようです。

「東欧のオタク秀才青年」の次に高得点のレポートを書いたのがオランダの大学から来ていた女子学生です。これも手塚治虫の実験作『展覧会の絵』(1966)に関するレポートで、得点は98点でした。手塚治虫は、日本人離れして、コンセプトが明確なので、分析がしやすいようです。そうですよ〜〜手塚治虫だけが、「普遍」に達することができた日本が生んだ天才漫画家&アニメ・クリエイターなんですよ〜〜日本漫画界のレオナルド・ダヴィンチなんですよ〜〜

次の高得点レポートは、オーストラリアの大学から来た女子留学生の「日本人の現実逃避性向と日本アニメの関係」に関するエッセイで、これは96点にしました。

なんで、そんなに留学生のレポートに点数が甘いかって?しかたないですよ。成績評価って、相対的なものですから。今年度のこのクラスの受講登録者数は、留学生受講生が20人くらい、日本人が300名ほどでした。この日本人受講生の水準も視野に入れて成績をつければ、そうなるんですよ。留学生の水準を基準にしたら、日本人学生のほとんどは単位など取れません。いきおい、留学生の点数は高くならざるをえません。しかたないですよ。私が、外国人に甘いのではありません。

だいたいね〜〜小学生と大学生を同時に同じ教室で教えるなんてことは、できません!留学生対象のクラスならば、日本人学生は受講できないようにしてもらいたい!せめて英語の成績がAの学生だけに許可してもらいたい!と言っても無駄なことです。「差別」だとか何とか言うんだよな・・・来る客は拒めないんだよな、遊女は。いや、教師は。

もちろん、留学生でも、幼稚な感想文しか書かないのもいますし、ごく少数ではありますが、剽窃(ひょうせつ)しているレポートを提出しているのもいます。これが日本人学生ならば、半分くらいはインターネットからパクッたものを、ただただコピー・ペイストします。ほんと蹴り倒して、頭から腐った醤油をぶっかけてやりたくなるよな。醤油って腐るの?

だいたいが、アジア人って「知的所有権」感覚は薄いもんね。中国や韓国からの留学生は、日本人学生なみに、「小論文」というものの書き方の訓練を受けていません。引用、参考文献リストの作成などの知的誠実さ(intellectual honesty)についての訓練を受けるのは、アジア人は、大学院に進学しないと受けることができません。ま、こういう状況も、日本の大学でも、1年生に対する基礎演習の導入により、改善されつつありますが。「参考文献リストつけよう〜〜出典は明らかにしよう〜〜賢そうに見えるよ〜〜〜評価BのレポートがAになるよ〜〜」と、私は1年生にたきつけておりますが、誰も聴いておりません。

(2)フランス人女子留学生Cさんの場合
彼女はすごい美人です。歩くバービー人形です。180センチ以上の長身で、スーパーモデルみたいです。「うわあ、さすがフランス人だなあ〜〜」と、「パリ」や「おフランス」苦手の私でも、お洒落のセンスの良さには、感心します。

私が、なぜ「おフランス」が苦手なのか、その理由ですか?フランス文学とかフランス思想とか専門にする奴って、やたら気取っているが、口だけ達者で、やっていることは、しょうもない文化左翼の寄生虫的知識人で、いかにもいかにも、まっこと「おフランス」で不快な奴が多い!と断言できる実体験が多かったからであります。

でも、あくまでも、苦手なのは「おフランス」です。お・フ・ラ・ン・ス。実際のフランスやフランス人に対しては、別に・・・です。よく知らないし、行ったこともないので、特に何も感じません。

とにもかくにも、「おフランス」苦手な私でさえ感心するぐらいに、彼女は素敵な、いかにもいかにもの洗練されたフランス美女です。すれ違った誰もが振り返るぐらいの華のある美女です。私も、桃山の通路で、初めてすれ違ったときは、思わず出ない口笛を鳴らしそうになりました。

彼女とは、何度も話したことがありますが、とっても感じが良くて、英語も癖がないし、お行儀もいいです。育ちもいいことがわかります。どういうときに、育ちがいいかって、わかるかといいますと、食事時です。食べ方が汚いとか綺麗とか、そういうレベルの話ではありません。「自分が食べ慣れていないものも、食べてみる」という異文化に対する好奇心や積極性に、育ちは出ます。

奈良とかの古い観光地に留学生さんたちを連れて行ったりすると、まるっきり濃厚にネイティヴ・ジャパンのメニューしかないお店で、ランチをいただくしかないことがあります。「おでん定食」とかさ。その「おでん定食」に果敢に挑み、完食する外国人は、育ちがいい!お大根だろうが、コンニャクだろうが、チクワだろうが、厚揚げだろうが、食ってみるという子はいい!せっかく外国にいるのだから、何でも味わってやろう〜〜という積極性があるし、こだわりがありません。

桃山にいる交換留学生も、いろいろです。日本に来ていながら、あちこちに行ってみることもしないし、日本の文化も、ハイ・カルチャーにせよ、サブ・カルチャーにせよ、全く関心がないという、わけのわからない留学生がいます。日本文学はもちろん、日本の歴史も地理も知りませんし、日本映画も見ていません。かろうじて、ハヤオ・ミヤザキのアニメを見たという程度です。来日前に、日本語を勉強しましたと言いつつ、絶対に日本語を使いません。いったい、この子は、何しに日本に来たのかな?と不思議に思わせられるような留学生が、まれにいます。

桃山が出す奨学金が悪い額ではなく、条件がいいので、本国にいても、すぐにいい就職先もないし、本格的に学問するような頭じゃないし、でも時間潰しはしないといけないし、まあ日本の大学に留学してアジア見てきました〜〜日本語もできます〜〜とか帰国してから言えば、格好もつくんじゃないの〜〜?というノリで、桃山に、うっかりやって来たようです。

この手の留学生は、各国から集まる交換留学生用のアパートメント・ハウスに入居しても、自分の国の人間とばかり話しています。英語ができないのかな?ただし、同国人でも、話すと気骨が折れそうな頭の切れる奴は敬遠します。留学生間で、しょっちゅうやっているパーティなんかにも全く参加しません。引きこもりがちですから、他の留学生たちからも忘れられて、誘われなくなるので、余計どこにも行きません。近場の美術館や寺社仏閣まで歩いてみるという気力体力すらもありません。ちゃんと英語の地図を駅の観光案内所みたいなところでもらってきて渡したのに〜〜

この種の留学生は授業には出席しますが、全然聞いていません。トイレに行きたくなると、少人数の教室でも黙って出て行き、黙って帰ってきます。学級崩壊の日本のアホ小学生みたいです。日本人の教授が話す英語だから、聴き取り難いのかもしれませんが、ノートも取っていないし、質問もしませんし、最初から何も聴いていないことは間違いありません。大教室講義なんかだと、自分と同じく、パッとしない気力のなさそうな留学生と私語ばかりして、担当教員からGet out from here!と怒鳴られます。怒鳴ったのは私です。私は、どこの国の人間だろうが、馬鹿私語学生に容赦しない。

「時間つぶしに日本に来ました〜〜でもやっぱり、どこにいても無気力です〜〜」という、この種の留学生は、日本食が好きだといいつつ、日本食に箸をつけても、必ずいっぱい残します。また残し方が汚い。鳥がつついた跡みたい。食べ物に対する敬虔な気持ちなど、みじんもなさそうです。

まだ若いくせに、外国に行って、その土地の食べ物を試さず、自分の国の食べ物にばかりこだわるのは、偏狭さのせいです。なんで偏狭かといえば、頭が悪いからということもありますが、まずは、育った家庭の習慣が偏った狭いものだからです。親御さんが幅の広い生き方をしていないから、それが子どもに反映されます。まあ、25歳くらいまでは、親の持つ情報の質と量によって、子どもの生き方が決定されますから、しかたありません。

ほら、「あれが食べることができない」とか「これが食べることができない」って、やたらに好き嫌いが多くて、かつそれを口に出す人がいるでしょう。味覚が極めて繊細な「グルメ・プロ系職業人」でもないのにさ。

こんなタイプの人間は、小さいときから、決まったものしか食べてないんで、食べ慣れないものに、すっごく抵抗感があって、自分の慣習の中に頑固に閉じこもります。要するに、子どもの頃から、いろんなものを食べさせてもらわなかったというだけのことです。さらに言えば、食経験が貧しいと同時に、かつ頭が悪くて否定的思考の持ち主だっていうだけのことです。

だって頭が柔軟ならば、素直ならば、あまりいろんなもの食べてこなかったからこそ、好奇心バンバンで、長じてはいろんなものに挑戦するという、究極のグルメになるでしょう。天才的料理人になるかもしれません。あなたが、もしも万が一、食べ物の好き嫌いを口にすることが、カッコいいみたいなことだと思っていたら、それはやめたほうがいいですよ〜〜♪って何の話か?

そうそう、素敵なフランス人の女子留学生の話でした。私が、彼女をもっと好きになったのは、以下の事実を知ったからでした。

彼女は、日本に来てから、大阪のモデル事務所に登録を薦められました。東京では、芸能プロやモデル事務所のスカウト場所は原宿らしいですが、大阪では道頓堀の戎橋(えびすばし)です。桃山学院大学でも長身でスタイルのいい美人の女子学生は、何度かスカウト・マンから名刺をもらっています。そのフランス人女子留学生も、何度も名刺をもらいました。私がもらうのはティッシュだけです。なんか文句ある?

モデル事務所に登録しても、すぐに仕事など来ません。どんなモデル仕事だって、その前にオーディションというものがあります。デパートやスーパーの特売広告のモデルにだって、あります。オーディションの日が、たまたま、いつも桃山の留学生向けの授業がある日と重なり、彼女はオーディションを受けることができずにきました。つまり、その美貌で稼ぐことができませんでした。彼女は、1ヶ月間タイを旅行したいのですが、その旅費をフランスにいる親御さんにねだることはできませんでした。日本への留学で、ただでさえ負担をかけているのに。

ならば、アルバイトするしかありません。タイは物価が安いから、滞在費は小額ですみますが、問題は渡航運賃代とタイ国内の移動航空運賃代です。日本語が不自由ですから、ウエイトレスとかは駄目です。まともな育ちのお嬢さんですから、水商売系は、さらに駄目です。大学の規則にも反します。

彼女が始めたのは、大学近所の工場での週2回の夜勤のダンボール箱組み立てのアルバイトでした。夜の9時から夜明けまでのダンボール箱の組み立て作業は、主婦のパートさんはやってくれません。言葉は無用で、ただただ組み立てて箱を作ればいいだけですから、工場側は、「外国人がいいや〜」ということで、大学の国際センターに、いつも求人しています。

このアルバイトは、語学教師以外に、大学が交換留学生に許可する唯一のものです。安全で地味です。ですから、この工場には、誰かしら、桃山の留学生がアルバイトに行っているようです。工場側も、留学生は真面目だからいいということらしいです。私の知っているンドネシアの女子留学生もポーランドの女子留学生も、この工場でアルバイトをしました。

週2回で1ヶ月の収入が約5万円です。時給は800円くらいかな?そんなものですね。コンビニの深夜担当より少なめかな。

工場の人々は、びっくりしたそうです。外国人留学生のアルバイト姿には、すでに見慣れていましたが、スーパーモデルみたいなバービー人形みたいな美女が現れたのには驚いたようです。その生きているバービー人形ちゃんは、深夜に黙々と長い手足をもて余しながら、段ボール箱の組み立てを始めました。彼女は、最初は、同じ作業の連続が辛く感じられたそうです。「もう〜自分を殺しちゃいたい〜〜」と思ったそうです。しかし、工場の人は親切にしてくれるし、本国のフランスにおいてならば体裁も見栄もあって絶対にしないようなことを、留学先の日本でやることになり、いろいろ考えることができたそうです。

つまり、彼女は、アジアの極東の島国の地方都市でダンボール箱の組み立ての作業をしながら、「働いて食ってゆくことの厳しさ」について、何がしかを考えたようなのでした。

みなさん、「フランス」とかいうと、なんかゴージャスなイメージですが、フランス人留学生に言わせると、「フランスの町はうるさくて、汚くて、臭くて・・・」なのです。どーゆうことかというと、町はゴミだらけで、植え込みからは立小便の痕跡のアンモニア臭がするし、危なくって夜は歩いていられないのだそうです。パリといっても、セーヌ川沿いには、ホームレスのテントが並び、ブーローニュの森では、麻薬中毒の男女が売春営業に勤しんでいるそうです。シュールですねえ・・・

恋愛ゲームと美食に励むのが「伝統的フランス人」らしいですが、現在のフランスは、大学を出ても若い人は、なかなか就職できないそうです。それに加えて、どんどんどんどん旧植民地の人々がフランスへとやってきます。サルコジ大統領だろうが、右翼だろうが、新自由主義者だろうが、嫁さんに誰かと駆け落ちされようが、歌手と再婚しようが、フランスの経済を何とかしてくれれば誰でもいい!という感じに、フランス人は自分の国に嫌気がさしているけれども、かといって逃げる場所も金もないというのが現状だそうです。閉塞感がいっぱいらしいのです、今のフランス人の人々の心の中は。

その種の閉塞感は、現代の地球上の先進国を覆う共通項のようなものであり、日本も例外ではないと日本人には思えるのですが、彼女たちに言わせれば、それはちょっと違うようです。日本は、ほんとに別世界らしいですよ、彼女たちからすれば。町は静かで平和で清潔で、人々は穏やかで、基本的に親切で、自分の国に嫌気なんか、まだまだしていない。

Brics(ブラジル、ロシア、インド、中国)や東欧諸国は上り調子で、「閉塞感」なんて優雅な贅沢品は、まだまだ手にするのは先のこと、今は稼がなくっちゃ!とばかりに、ハングリー精神で邁進しています。それらの国々の元気はさておいても、フランス人から見れば、日本は、なんのかんのといっても、うまくいっているように見えるようです。なんで、こんな極東の国の黄色い顔のみっともない小さな人たちが、のんびりと便利に気楽に安全に暮らしていられるの〜〜?変だよね〜〜?なんで〜〜?という答えの見つからない疑問を、彼らや彼女たちは抱いているようです。

彼女は、卒業後はイギリスの会社に就職したいそうです。だから癖のない明晰な綺麗な英語も身につけたのです。就職するのに有利なように、アジアのビジネスを学びに日本の私立大学の経営学部に留学したという履歴を作りに来たのでした。なぜ自国のフランスでキャリアを形成することを考えないかという発想は、日本列島以外では生きていく場所を想像できない、私を含めた大方の日本人のものなのです。彼女にとっては、ヨーロッパ連合に含まれた地域全部が有利な就職場所候補の対象なのです。なるほど。

20年後の彼女は、ユーラシア大陸やアメリカ大陸を飛び回る多国籍企業のビジネス・ウーマンのキャリアを築き上げていることでしょう。カッコいいなあ!彼女ならば、キャリア・スーツが惚れ惚れするほど似合うだろうなあ!

さて、ダンボール箱組み立て工場に週2回通って数ヵ月後、彼女は、めでたくタイ旅行費用を稼ぎ出しました。今は、仲良しの桃山の在日韓国人女子学生とともにタイ旅行を満喫中です。頑張った自分自身に対する誇りと自己確信は、そのタイ旅行により、一層に深まることでしょう。現地では、半期だけの桃山滞在で帰国したドイツの男子学生や、同じくすでに帰国した韓国人女子学生たちとも合流するそうです。タイで、あらためて、桃山交換留学生アパートメント・ハウスの友情と喧騒を再現するつもりのようです。大いに楽しんでね〜〜

まあ、なんということもない話でした。留学生の話は、まだまだ次回に続きます。