アキラのランド節 |
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スター誕生---『ターミネーター4』編 [06/14/2009]ずっと幽霊状態が続いていると、前のランド節に書きました。しかし、前回のランド節を書いている最中には、幽霊ではなく人間になっているような感覚がありました。ランド節を書くことは、私にとってリハビリになるようです。 というわけで、みなさま、私の「幽霊から人間になりたい」リハビリティションに、しばしお付き合いください。 一ヶ月ぶりに名古屋に帰り、味噌煮込みうどん食ったり、「すがきや」のラーメン食ったり、熱田神宮に行って宮きしめん食ったり、映画みたり、ミステリー読んだりしました。勤務先の近くに借りている部屋で過ごす週末は、授業準備や掃除や食材買出しなどに費やしますが、ここ数日は、「週末らしい週末」を過ごしました。 で、この週末に、「あ、いいな、新しいスターが生まれたな」という嬉しさを、2回も(それぞれ分野は違いますが)感じたので、そのことを書きます。今回は、新しい映画スター出現についてのみ、書きます。 スターは必要なのだ!映画でも文学でも政治でも経済でも! みなさん、『ターミネーター4』(Terminator Salvation)は、予想外に、想定外にいいですよ。パンフレットを買うなどということはめったにしない私ですが、この映画のパンフレットは買いました。 感動するとか、世紀の映画だ!と思わせるようなものではありませんよ、もちろん。そんなこと当たり前じゃないですか。SFアクション映画なんだから。「ないものねだり」をしてはいけません。日本映画に気宇の大きさを求めるようなもんです。 おそらく、できはひどいであろうから退屈さを紛らわすものが必要になると予測し、私は、大型サイズのカップ(ボール?ボックス?)いっぱいのキャラメルコーンとウーロン茶を売店で買いました。そのトレイを大事に持ち運びながら、私は座席につきました。アメリカみたいにバターを熱く溶かしたものを、たっぷりかけたポップコーンは、なぜ売ってないのかな。 観客は、意外と私と同年輩の方々が多かったです。1980年代から、このターミネーター・シリーズを見てきた方々なのでしょう。60歳近いのに、ブルー・ジーンズはいて目線が鋭い、とんがったオッサンも数人見かけました。と言っている私もジーンズをはいていたし、目つきが柔和なわけはないので、人様のことは笑えない。ターミネーター・シリーズ好きな奴って、こんなんばっかりなのかも。 まもなく、タイトルバックが始まって例の音楽が聞こえたら、歓喜が重低音のように私の身体に響きましたね〜〜♪よくできた映画は、最初から違います。最初の場面から違います。 コンピューター(マシーン)が人間攻撃を開始して核戦争が起きたあとの2018年という設定の世界の映像が素晴らしい!色彩が失われたかのような荒廃し殺伐(さつばつ)とした廃墟の映像が素晴らしい! 砂漠化し、残骸が山積し放置され、その残骸に埃が溜まり、その灰色の地上の上に広がる、これまた灰色の空をスカイネット(マシーン軍)の偵察機&殺人機が飛行する世界の映像が素晴らしい!禍々しいメタルの光沢が素晴らしい! 廃墟の中で、人間として生き抜き生き残ろうとする人々の、老いも若きも、男も女も、オトナもガキも変わらない、無駄口たたかない俊敏な生命力が、素晴らしい! まあ、細かいことを言えば、いろいろ不満もあるのですが、総体的に素晴らしい!最近のアクション映画の中では、かなりのできです。少なくとも、中国映画のアクション大作の『レッド・クリフ Part2』よりは、はるかにいいと思います。 だいたいが、続編というのは、回を重ねるごとに、ろくでもないものになりがちです。1984年に発表された『ターミネーター』は、若々しさと斬新な熱気が充満していました。1994年の『ターミネーター2』は、SFXに磨きがかかり、プロットも、より洗練されていました。 ここまでは良かったのですが、2004年の『ターミネーター3』は、こけてしまいました。プロットもぼけていましたが、何よりも、女性形状サイボーグと、今はカリフォルニア州知事のシュワルツネッガー扮するサイボーグの死闘というのが、「絵柄」として極めてまずかったです。 シュワちゃんが、どう見ても、女を虐待している暴力男に見えてしまいました。最悪のDV男が美人をバラバラに解体している映像なんか誰が見たいか。美人がDV男を制裁している映像ならば爽快なのですが。あ〜た、アクション映画で後味がすっごく悪かったら、最低でしょーが。 というわけで、「15年近く経っての続編ねえ・・・ジョン・コナー役がクリスチャン・ベールではなあ・・・『若草物語』で、隣のお金持ちの坊ちゃんのローリーやった子でしょう?あの子じゃねえ・・・まあ、『バットマン・ビギンズ』や『ダークナイト』は悪くなかったけど、あれは助演俳優たちが良かったから・・・大スクリーンで主役張るには、足らんのよ、あの子。柄が小さいわけでもないのに、何かが足らんのよ。市川猿之助の真似をしても、なんか華(はな)がない市川右近みたいなもんよ。なんで、あの子を使うかねえ??」と、危惧していた私だったのですが。勝手に危惧してろって。 しかし、ちゃんと新しいスターが用意されておりました。よかった、よかった。サム・ワーシングトン(Sam Worthington)さんです。若いのに重厚な存在感があります。うわああ〜〜ハリウッド映画に重厚なスター男優が登場するなんて、何年ぶり? しかし、スターと呼ぶには、あまりに無骨な人です。男前と呼ぶには、実質が、たっぷり詰まりすぎている感じです。男前なんて、「社会的にも経済的にも無能で空虚」って感じですもんね。男前が、日本で売っているフワフワとスカスカのパンならば、サム・ワーシングトンさんは、しっかり小麦粉がぎっちり詰まった噛みごたえのある欧米のパンです。いかにも歯が弱いと噛み切れない感じのごっつさです。 『パール・ハーバー』のベン・アフレックとマット・デイモンを合成して、もっと骨太にして、野趣を加えて、21世紀風味(乾いた情感)のスパイスを効かせた男優さんです。質のいい共和党系草の根保守田舎男の骨太さに、『チーム・アメリカ』で散々にコケにされた民主党風リベラル風味の知的な繊細さが混じり、そこにリバタリアン魂が入っているといった感じの風貌をしています。 いいとこ取り。完璧。これでこそヒーロー。 風貌が大事なのですよ、俳優さんなんだから。見る者をして、感情移入させて、臨場感を伴う生き生きとした幻想を抱かせるに足る風貌が。中身が馬鹿でもいいですわ。俳優というのは、役柄が憑依する「よりしろ」です。「ヒトガタ」です。霊媒です。人格や知能なんか関係ない。 サム・ワーシングトンさんは、「小綺麗爽やか小利口少年風年くった稚児さん」みたいな男優が好きな傾向にある日本人女性の好みには合わないかもしれませんが、私は好きだなあ〜〜♪ 若くてもオッサン風味の老成したのが私の好みです。前に、別の業界にいる方から、「大学の女の先生って、ときどきは男子学生さんを食ったりするの?」と質問されましたが、現場を知らない方は、まことに奇想天外な法外な発想をなさいます。ガキは見物したり、暇つぶしにからかうにはいいですが、基本的には退屈です。ガキのお守りは職場でだけで沢山です。 兄と二人の警官殺しで死刑宣告を受けていた男が、死刑執行の後に生き返るという契約に署名して、サイボーグ手術を受け、2003年から2018年に時空転送されます。物語は、そこから始まります。その死刑囚を演じたのが、1976年オーストラリア生まれのサム・ワーシングトンさんです。 物語は、この死刑囚が、死刑にされて、サイボーグにされてから、逆説的に「人間として自らが納得できる人生を送る」ことに挑むことが中心に構成されています。 『ターミネーター4』の主役は、人類の救世主ジョン・コナーではありません。マーカス・ライトという死刑囚が、2018年に転送されて、廃墟と化したロス・アンジェルスで、少年の「カイル・リース」と遭遇し、ひいてはジョン・コナーを助けるという新しい物語が、前の物語内容に接続されました。まず、この点が成功しています。 「カイル・リース」というのは、もちろん、最初の『ターミネーター』において、未来から過去に送られて、サラ・コナーを守って死んでいった戦士ですね〜〜マイケル・ビーンが演じました。彼は、その後どうしたの?私は、あの頃、映画雑誌から破り取った彼の写真を冷蔵庫の扉にマグネットで貼って、むふふ・・・と喜んでいたものですが。声のいい俳優さんでした。 『ターミネーター4』において、ジョン・コナーは、(過去に行って自分の父親になるはずの)15歳くらいのカイル・リースに出会います。この少年を演じているのは、サンクト・ペテルブルク出身のロシア系俳優アントン・イエルチン(Anton Yeltsin)です。プーチンに髪を足して、若くして、もっと端正にした感じです。声がいい。 このカイル・リースと行動を共にするスターという名前の幼い少女です。この少女を演じる黒人の子役ジェイダグレイス・ベリー(Jadaglace Berry?)が、またいいです。大きな瞳が綺麗です。その大きな瞳は繊細な感情を表現できます。幼いながら優雅で、力がある瞳です。パンフレットによると、お母さんが日系アメリカ人だそうです。どうりで。 核戦争のショックで失語症になっているという設定の役柄の少女ですから、表情の豊かな演技力がないと、なんともなりません。無口だが眼の表情が豊かな子どもというのは、健気で可愛いらしいですね。 この映画は、キャスティングがいいのです。みなキャラ立ちしています。廃墟で生き残っている老婆も、とても凛々しくていいです。無駄に無意味に長生きして介護に若い人々の人生を浪費させる残酷な老人なんか廃墟にはいませんから、清々しいもんです。 ともかく、キャスティングが素晴らしい。ジョン・コナー役のクリスチャン・ベール以外は。ははは。 無理なんだって。クリスチャン・ベールは眼が駄目だもん。過去に転送されて、自分の母を守って死んだ父親の少年時代を見るジョン・コナーの瞳が、あんなんではいけません。自分が生まれる前に死んだ父に出会うのですよ。少年時代の自分の父に出会うのですよ。限りない悲哀と愛情と懐かしさを、冷静沈着なまなざしの底に感じさせるような演技ができなきゃ、意味ないだろーが。大人になってから自分の親の子ども時代の親本人(ややこしい!)に会ったら、どんな気持ちがする?万感迫る思いになるだろーが。なんとしてでも守ってあげたいという気持ちになるだろーが。 クリスチャン・ベールに、そんな演技力はありません。スターは眼です。眼に繊細な感情が出せないと駄目です。 ところで、世界のあちこちにいる(人間が機械に抵抗する)抵抗軍に、スカイネット(機械軍総司令部)総攻撃を中止するように、無線で連絡するジョン・コナーの姿は、誰かを思い出させます。『肩をすくめるアトラス』においてラジオで全米に自らの思想と新生アメリカの大義を伝えるジョン・ゴールトを思い出させます。 この映画の脚本を書いた人は、アイン・ランドが好きだ!と、私は勝手に確信しました。いや、はっきり言って、この映画、すっごくアイン・ランドが匂うぞ! アイン・ランドが生きていたら、絶対に、このターミネーター・シリーズを偏愛したに違いないです。スポーツ苦手&運転が苦手だったアイン・ランドはテレビ大好きで、特に好きだったのが、『チャーリーズ・エンジェルズ』とか『ワンダー・ウーマン』でした。超人的にタフで頭脳明晰な女性が活躍するアクション・ドラマです。 はい。『肩をすくめるアトラス』のヒロインのダグニー・タガッートみたいなヒロインがガンガン悪をぶっ倒すアクション・ドラマですね〜〜♪ 『チャーリーズ・エンジェルズ』とか『ワンダー・ウーマン』は、私も、ガキの頃大好きでした。アイン・ランドの好みと私の好みはかぶっています。当然か。私もスポーツ嫌い、できない、見るのも駄目、運転できない、テレビ大好きです。アクション映画見てアドレナリン放出して運動した気分でいます。夫に、「運動しなきゃ駄目だって!」と、どれだけ注意されても、巌(いわお)のごとく微動だにしません。ははは。 笑っている場合か。 ちなみにと言いますか、必然的にといいますか、偶然かもしれませんが、この『ターミネーター4』の監督は、映画版『チャーリーズ・エンジェルズ』と『チャーリーズ・エンジェルズ/フルスロットル』の監督をしたマックGです。マックG。マクドナルドの新メニューではありません。そういう名前です。 この監督さん、きっとランディアン。 話をサム・ワーシングトンにもどしましょう。未来のスターに戻しましょう。なんと、この男優さんは、『ターミネーター』の生みの親ジェイムズ・キャメロン監督の新作『James Cameron’s アバター』に抜擢されています。今冬上映予定。おお〜〜期待しよう!『タイタニック』は、しょうもなかったが、『ターミネーター』と『ターミネーター2』と『エイリアン2』は素晴らしかったですからね、キャメロン監督! このサム・ワーシングトンさん、俳優になる前は、レンガ職人(つまり石工さんみたいなもん?)だったそうです。レンガ職人から、SFアクション映画のスターへ。この振幅の大きさも、いいなあ。 これだけ柄の大きな男優さんですから、都会派コメディとか、ホームドラマとか、ラヴ・ストーリーなんかには使えません。キャラが余ります。でっかい身体がはみ出ます。ギリシア悲劇か、史劇か、広大な宇宙を舞台にしたアクションでないと無理です。ホームドラマのお父さんや、ふつーの会社員を演じる三船敏郎なんか想像もつかないでしょう?そんな三船敏郎は冒涜的でしょう?それと同じです。 『肩をすくめるアトラス』のジョン・ゴールトを演じるにふさわしいスターが、やっと見つかりました。この人です。サム・ワーシングトンさんです。ブラット・ピットなんかにさせてたまるか。 私は、『ターミネーター4』において映像化されているボロボロに傷ついた人間たちと、マシーンの戦いの映像を、ある闘争の比喩として見ました。この世界を支配する見えない人々が繰り出す策に翻弄されつつ、脳を侵食されつつ、身体を痛められつつ、管理されつつ、あくまでも主体性を持って生きる人間として生きたいと欲望し、生き延びようとする人々の戦いの比喩として見ました。 唐突な感想?妄想?そうかな。映画をご覧ください。そんな気分になるから。 『ターミネーター』が上映された1980年代半ば、私はたっぷりと洗脳されていました。信じるに足りないどうでもいいことを、いっぱい信じていました。信じなければならないことが何かという知識すらありませんでした。 『ターミネーター2』が上映された1994年は、疑問を感じ始めてはいましたが、まだまだいっぱいの幻想の中で生きていました。自分の無知を意識してはいましたが、さて、どこに行けばいいのか、どうすればいいのか見当もつきませんでした。 『ターミネーター3』が上映された2004年は、アイン・ランドの『水源』出版のことしか頭にありませんでした。アイン・ランドに出会ってからの激変に自分を慣らすのにせいいっぱいでした。信じるべきことが見えてはきましたが、それを心底信じる勇気が足りませんでした。 そして、2009年の今です。あれから25年が経過しました。 この25年の間に、世界の言論が変わりました。日本においても、表面的には、あいかわらず、いい子ぶりっ子の毒にも薬にもならない精神文化風土です。日本ではないどこかの手先である大手出版社&新聞社&放送局によって情報統制された言論風土です。しかし、そのマトリックスは、ネット言論や暴き系言論によって、じょじょに綻(ほころ)びつつあります。かなりの数の人々が、それを意識するようになりました。 マトリックスが綻んだ後には、どうするのか。2009年は、それを考える年なのかもしれません。 私は、セッセとキャラメルコーンを口に運びつつ、スクリーンに展開されるメタルな光沢がカッコいいマシーンの映像に魅了されながら、サム・ワーシングトンさんや、彼が扮するマーカスを助ける女性空軍兵士を演じるアジア系の美人で素晴らしくプロポーションのいい女優さんのムーン・ブラッドグッド(Moon Bloodgood)さんの勇姿に魅了されながら、スカイネットの捕虜になっている人間たちが、ナチスの強制収容所にいるユダヤ人のように見えることが、気になっていました。 なに、この映像は?どーいう意味? この映画、本気で「抵抗軍」を描いているのかもしれません。人間が人間のままに生きる世界ではなく、世界を牧場にすること&自分たち以外の人間を家畜にすることが大義だと考える人々に対する抵抗を。 核戦争を起こし、人間殲滅を実行し、人類の救世主の親になるはめになる女と男を過去に遡って殺害しようとするマシーン軍には、マシーン軍の大義があります。人間なんかに好きにさせておくと、ろくでもないことばかりするからなあ、確かに。 でも、美しく合理的に管理され機械化された囲い込みの牧場じゃなくてもいいんだよ。そんな天国、しょうがない。天国はちゃんと別口にあるから、この地上が天国である必要はない。ガンガン人間が生きて勉強する場でありさえすればいい。自由に模索する場であっていい。廃墟でも、いいんだよ。 『ターミネーター4』に描かれていた廃墟は、死の風景ではなく、あくまでも生きることへの情熱を感じさせる生気あふれる廃墟でした。希望も夢も怖れもなく、ただただ生き抜けんばいいんだというシンプルな廃墟でした。カッコいいなあ〜〜♪ ところで、『ターミネーター4』において、(人間が機械に抵抗する)レジスタンスの軍司令部の司令室のモニターのひとつに映しだされていた日本列島は、何の意味だったのか。なにゆえか何回も映し出されていました。私は、あのモニターに映っていた日本列島を美しいと思いました。あれは、ターミネーター・シリーズ大好きな日本人観客へのサーヴィス?まさかね。 それとも、あの未来の日本列島にも抵抗軍は残っているということを意味していたのかな。I hope so. <管理人より一言>文中にある「キャラメルコーン」とは、同名の商標の商品ではなく、「キャラメルをかけたポップコーン」のことです。 |