アキラのランド節

三ツ星レストラン岸田周三氏の「カンテサンス」に行った報告  [09/03/2010]


9月になりました。でも、まだ猛暑です。私が、アカデミック・アドヴァイザーしているインド人女子交換留学生が、「日本がこんなに暑いとは思わなかった。耐えられません。秋になったら、戻ります」と言って、8月早々とインドに帰りました。

インド人からも嫌われる日本の猛暑。

ところで、本日のランド節は、東京は港区白金台にある三ツ星フレンチ・レストラン岸田周三氏の「カンテサンス」(Quintessence)で、8月6日にディナー食ったよ、という報告であります。

三ツ星レストランの話題なんか、そんなもん、民主党代表選挙や河村たかし名古屋市長市議会減税解散リコール署名活動に比較すれば、どうでもいいことであります。しかし、これは、1ヵ月近く過ぎても、なかなかに貴重な体験であった〜〜と、しみじみ思うような体験でありました。ですから、記憶力の悪い私は何でも忘れてしまうので、ここに書いておきたいと思います。

東京港区白金台にある三ツ星フレンチ・レストラン? なんで、そーいう私らしからぬ場所に行ったか?

東京で働いている桃山学院大学のOBが、ロンドン大学キングズカレッジのDepartment of War(戦争学科??)の修士課程に合格して、もうすぐ渡英します。「大学院に合格したら、お祝いは岸田周三さんのレストランでしたげるね〜〜♪」とか、その場の勢いで、私は、数年前に、彼にテキトーに約束してしまっていました。

そのOBが、「先生、ハワード・ロークみたいな料理人がいますよ〜〜」と、NHKのTV番組「プロフェッショナル--仕事の流儀」で紹介されていたフランス料理の若き天才シェフの岸田周三氏のことを教えてくれたのは、2008年のことでした。私は、早速、YouTubeで、その番組の録画を探し出しました。で、「おお〜〜ほんとだ、この人、ハワード・ロークだああ〜〜」と、私は大いに感心しました。

岸田周三氏のことは、本ウエッブサイトの「I’ve Got a Randian! ランディアン見つけた!」というコーナーでも書きました。この若き天才シェフは、言っていることが、ハワード・ロークです。ご存知ない?開店休業の更新なしの、そのコーナーをお読みくださいまし。

岸田周三氏がシェフを勤めるフレンチ・レストラン(シェフだか、オーナー・シェフだか知りません)の「カンテサンス」のカンテサンス(Quintessence)ってのは、フランス語で物事の真髄とか本質、という意味です。お店のネーミングからして、ただもんじゃない。

それから、岸田周三氏のことを教えてくれた学生さんが卒業し、イギリスの名門大学の大学院に、めでたく合格しました。で、私は、軽率にも、うっかり自分が口走ってしまったことを、実行するはめになりました。安易に約束をしてはいけません。くそ。

しかし・・・まあ・・・キンタクンテじゃない「カンテサンス」でお祝いディナー・・・いいではないの〜〜♪と、私は思い直しました。こういう機会でもないと、私が、わざわざ東京くんだりの人気高級フレンチ・レストランになぞ行くはずありません。港区白金台だってさ。どこだよ、それ?

「白金」ってのは、「はっきん」とは読まない。「しろがね」と読む。プラチナ売っているわけじゃない。「黒金」って地区もある?若い女性は、ここに住む専業主婦になることに憧れるんだそうです。そういう奥様を、「シロガネーゼ」と呼ぶそうです。「カネガネーゼ」ではない。それは、私。

「カンテサンス」は、超人気店です。予約は2ヶ月前から受け付けています。つまり2ヶ月前から、予約いっぱいということです。キャンセル待ちのリストにも名前がいっぱいだそうです。午前に1時間半、午後に1時間半ある予約受付時間に電話しても、ずっとずっとずっと、お話中です。電話が繋がるのが奇跡なのです。やっとやっとやっと電話が繋がって予約できても、当日の1週間前ぐらいまでには「リコンフォメイション」(reconfirmation)してください、と言われます。当日3日前になっても連絡がつかない場合は、キャンセルされます。

さて、当日8月6日が来ました。「某国が皇居に向かってミサイルを撃つ」とネット界で噂されていた2010年の原爆記念日が来ました。レストランに行く前に、私とOBは靖国神社に参拝しました。なんでって・・・彼は、安全保障の国防の勉強をしに行くんだからさ、ちゃんと英霊に御挨拶してから行くのが筋でしょう!

私は、この際、正式に参拝するべきだ!本殿に入れていただいて、神主さんに祝詞(のりと)あげていただくべきだ!と主張しました。「そこまですることは、ないんじゃ・・・」と渋るOBを無視して、私は社務所に入り、正式なる個人参拝を、受付の巫女さんに申し込みました。

そしたら、綺麗な巫女さんに「ご遺族の方ですか?」と訊かれました。私は、戦死した親類の名前すら知らない。祖父は、空襲防火訓練で真冬に水を浴びて肺炎で死亡。伯父は空襲で死亡。父の従兄弟の多くは戦死した。占い師が「本家の次男(=私の父)を生き残らせるために、ご先祖さんが分家の息子たちを死なせることにした」と言ったそうです。それで分家の人々が怒って、父をシカトしたそうです。ほんまかいな。

ところで、靖国神社に御祭神(ごさいしん)は、ありません。明治にできた神社です。幕末から国体の維持と発展に尽くした人々を、攘夷派も開国派もひっくるめて、お祀(まつ)りしたのが靖国神社の起源です。その後、じょじょに、戦死なさった兵士の方々の御霊(みたま)をお祀りするようになりました。

だから、この神社においては、お玉串(たまぐし)の額や名前や住所を記入する「御祈願申し込み用紙」に、願い事を書く欄は、ありません。無理に、余白に「商売繁盛」とか「良縁祈願」とか書いてもダメです。お願いを聞いてくれる神様は、靖国神社には、いらっしゃいません。そんなこと頼まれても、英霊の方々が迷惑します。

OBによると、私たちのあとに、個人参拝を依頼してきたオッサンが、「厄除け」祈願を巫女さんに申し込んでいたそうです。靖国神社に来て、「厄除け」はないだろ〜〜ブラック・ユーモアでっせ。英霊の方々は、日本の厄を一身に背負って亡くなったんだぞ。

さて、時は夕暮れ近く。レストラン場所に到着。予約時間の6時半には、まだ少し時間があったので、「港区白金台」のあたりを歩いてみました。静かな品のいい街並みです。あたりは、すべて瀟洒(しょうしゃ)なマンションであります。お洒落なブティックが道路沿いに並んでおります。白が基調の街です。だから白金って言うのかな。

天才シェフの岸田周三さんのレストランは、これまた瀟洒な白い大きなマンションのビルの一階にあります。外からガラス窓越しにレストランの中が見えるような造りでは、ありません。ガラス張りのポーチの、ガラス張りのドアを押し開けると、またドアがあります。そのドアが重い。ぐっと力を入れて押さないと開きません。「気楽な、ろくでもない客」を断固拒否する外観でございます。秘密結社の入り口みたいです。

ドアを押し開けると、玄関ホールです。そこはwaiting roomでもあります。ソファとテーブが置かれています。左側に受付のカウンターがあります。若く綺麗な利発そうな女性が微笑をたたえて登場します。予約した名前を告げましたら、名簿の確認。バッグ以外の荷物を預けます。ふたりとも「靖国神社」と書いた袋を預けます。その袋は、正式参拝が終ってからいただいたものです。

それから、「お手洗いをおすませください」と言われました。ふ〜ん、食事中に、「もよおして」席を立っちゃいけないんだ。

受付の横にあるおトイレは、とっても綺麗です。綺麗なおトイレは大好き。大理石かな。人工大理石かな。ずっと座っていたくなるような居心地のいいトイレです。

私が用を足して出てきて、サッサとテーブルに着こうかな〜〜と歩き出したら、受付の女性に止められました。同伴者といっしょでないと席に着けないようです。そうか。卒業生も用をすませて出てきたので、さ、いよいよ入場!!私たちが、今夜の最初の客であります。

受付の女性が、テーブルに案内してくださいます。椅子はレザー張りです。黒いレザーの腰あてみたいな細長いクッションがついています。これ、とてもラクです。背を伸ばしていても疲れないように支えてくれます。

トイレの内装と同じく、ダイニング・ルームの内装も、大理石(か、人工大理石)でできているようです。銅色と暗褐色の組み合わせの壁面が、ヨーロッパ風に暗い間接照明のおかげで、モノトーンの色合いに見えます。教会の内部のような簡素でクールで硬質な趣があります。モダニズムやね。

広いダイニング・ルームではありません。だからこそ、客は、モダンな洗練を極めた小宇宙に入り込んだ気がします。そうです、ここは「岸田周三の世界」です。岸田氏の美意識が想像(創造)した空間です。岸田周三脳内世界やね。

収容客数(?)は何名ぐらいかな。右側に2人対面テーブルが8つです。これで16名。左側に個室1部屋です。あの個室は、推測すると、長くテーブルをつないで8名くらいは座れるのではないか。ダイニング・ルームの右と左は、ガラスのパーティッションで分割されています。その他に、4名くらいはOKの丸テーブルひとつが、個室寄りに置かれています。ですから、無理に詰め込めば、30名は入れるけど、25名ぐらいが快適保持適正客数でしょうか。私たちが食事した晩は、最終的には、ちょうど、その適正数25名でした。数えるな!

時間を戻します。最初の客の私たちが着席して落ち着いたところに、黒いスーツに白いシャツに蝶ネクタイをした30代半ばくらいの品のいい男性が登場&ご挨拶。私たちのテーブルの給仕を担当してくださるホール・スタッフの方です。

その方は、両開きのメニューみたいな形ではあるが、メニューではないものを私たちに提示なさいました。「カンテサンス」の基本方針を記(しる)したものです。そこには、火加減が・・・とか、食材が・・・とかについて、簡潔に書かれていました。それを流し読みした私。そんなん、いいの。お腹が空いてんの、私。

その方の説明によりますと、8月6日のディナーは13品目だそうです。そのうち、デザートが4種類(!)だそうです。「カンテサンス」は、ランチもディナーも、「おまかせコース」のみです。初回のお客さんには同じ内容ですが、2回目、3回目は、それぞれ違った内容になります。予約のときに、来店歴を質問されます。苦手な食べ物とか、食品アレルギーがあるかどうかも、質問されます。テーブルでも、同じこと訊かれた。ないっ!

それから、同じく黒スーツに黒蝶ネクタイのソムリエ登場。品のいい立ち居振る舞いながら、眼は鋭い。40代はじめぐらいの男性です。私はアルコールはダメです。OBも遠慮したのか、酒類は飲まないと言うので、ソフトドリンクで何かお薦めのものは、ありませんか?と、ソムリエさんに訊ねました。ソムリエさん、ちょっと残念そう。しかたないよ!ワインなんか飲んだら、港区白金台でぶっ倒れるよ!

ソムリエさん、フランスのどこやらの葡萄から特別な製法で作ったジュースを推薦。で、それを注文しました。スパークリング・ワインみたいな風味ですが、あくまでもジュースです。名前忘れた。

しかし、何ですね。お店に入って、テーブルに案内されて席について、飲み物注文して落ち着くまでの10分くらいの間って、面白いですね。なんていうか、勝負の時間ですね。客もお店の人も、にこやかに微笑みながら、互いに相手の値踏みをする10分間です。

お店の人は、客の立ち居振る舞いとか、衣服とか持ち物とか、場慣れしているかどうか、マナーとかチェックしているのでしょうが、客のほうも店の雰囲気、内装の具合、従業員のたたずまいとか、チェックします。この種のレストランだと、スタッフが、どれくらいスノッブ(snob)か、推量します。スタッフの躾の水準を眺めます。プロなのか、どうか測定します。

snobの意味ですか?「社会的地位が下の人々を馬鹿にし、地位や財産などに価値をおく上流気取りの人々」って英和辞典には書いてありますが、要するに、客の外見だけ見て、接客態度を変えるような、客商売の人間にありがちな卑しさ&浅はかさが人格の大部分を占める人間のことです。客商売ならずとも、この種のスノッブは、あちこちに棲息しますね〜〜♪

「カンテサンス」はどうでしたかって?

まっすぐに、いいお店です!非常に神経のいき届いているお店です。従業員の方々が慇懃無礼(いんぎんぶれい)とかいうことは、ありません。感じのいい明るい、しかし無駄口はたたかない人品卑しくない方々を、スタッフとして集めておられます。良き気遣(きづか)いができる方々を、揃えておられます。

たとえば、ソムリエの方(支配人かも)など、さりげなく、客が話したいことを話題にして下さるのです。「先ほどから漏れ聞いておりますと、留学なさるのですか?」とか。そうなると、私はいそいそと、教え子自慢ができるではないの。その方も、ヨーロッパで修行なさったようです。ロンドンの人々が、気楽にドーヴァー海峡を渡り、おいしいものをフランスに食べに行く様子などを、楽しく話してくださいました。

「カンテサンス」は、落ち着いた雰囲気ではありますが、明るさも漂っています。活気もあります。しかし、(大きなレストランではないので)厨房(ちゅうぼう)が、すぐ近くにあるはずなのですが、厨房から声がもれてくるとか、音が聞こえるとか、そういうことが一切ありません。静かに流れるように仕事が進行していました。これは、キッチン・スタッフ&ホール・スタッフ、すべての従業員の方々が、かなり集中して弛緩せずに働いているからこそ、保たれている静けさです。もちろん、ホール・スタッフがダイニング・ルームで客を忘れて、軽口をたたきあうなんて姿は絶対にない!

ところで、フランス料理のフルコースは、お皿の両側にズラリとナイフとかフォークが並び、一番外側に置かれているものから使用するというのが普通ですよね?「カンテサンス」では、そうしません。お料理がかわるたびに、その前に、新しいナイフとかフォークとかスプーンがサーヴされます。13種類もお料理が出るのでは、ナイフとかフォークとかスプーン全部を、テーブルに置くのは無理です。

それぞれのお料理に合わせた大きさや形の使い勝手を考えたナイフやフォークやスプーンが提供されます。うわあ、ホール・スタッフの方々、大変だなあ。お料理の説明もさることながら、お料理ごとに変えて出すナイフやフォークやスプーンを、ちゃんと記憶しておかなければなりません。

テーブルには白いテーブルクロスです。黒い石版形お皿が置かれています。どう見ても、あれは本物の大理石。重そう。Quintessenceという字が彫られています。これが、また粋なんよ。

その後、入れ替わり次々に置かれた食器は、すべからく、テーブルクロスと部屋の内装によく似合う黒系、グレー系、茶系の縁(ふち)のない石版形でした。硯(すずり)みたいな趣。これらの食器が、地味ながら、実に凝っています。上品で洗練されています。お料理を控えめに引き立てていますが、ちゃんとさりげなく自己主張しています。マイセンとか、ウエッジウッドとか、料理そっちのけで主張するような類の食器は、このお店では使用していません。

前もって書いておくべきでしたが、この「カンテサンス報告」は私の貧しい記憶からだけで書いています。私は何でも忘れるので、メモするのが常ですが、「カンテサンス」では、そーいう「取材」はせずに、めいっぱい料理と観察を楽しむことにしました。携帯電話で料理を撮影する、なんてことは思いつきませんでした。こっそり、いや堂々と、おのぼりさん丸出しで、すべきであったかも。

ですから、内容の保証はいたしません〜〜記憶違いが多々あるかもしれません。悪しからず、嗤って許して・・・で、ございます。

ところで、OBは、前日の打ち合わせ電話において、「先生、カンテサンスは、ドレス・コードないんですよ。ジーンズでもいいと、ネットに書いてありました」と、言っていました。そんなネット情報なんか鵜呑みにするんじゃねーよ! Tシャツにジーンズでいいのは、「ホリエモン」級のセレブだけじゃ!一般ピープルは、レストランに敬意を払って、フツーにきちんとした格好をするんだよ!

当日、そのOBが、ジーンズで来たら張り倒してやろうと思っていましたが、さすが紳士の国(と、かつて呼ばれた)英国の大学院に留学する人です。彼は、きちんとした紺のジャケット着て、カフスのついたシャツに、カフスボタンつけて、もちろんネクタイもしてきました。大正解です。よく似合っていましたよ!

以下は、肝心要のお料理について、です。記憶に残っているものだけ書きます。13品目のうち、どうあがいても内容が思い出せない品目がいくつかあります。サーヴされた順番も間違っているかもしれません。すみません。

第1品目。これは前菜ではなく、アミューズ(amuse)と呼ぶらしいです。日本料理でいう「突き出し」みたいなもんか。「原木椎茸とセップのビスケット」。岐阜で取れた原木椎茸(げんぼくしいたけ)って何?セップって何?きのこのスライスがチョコレートみたいなものの上に乗せられたものがお皿に2個。直径2.5センチくらい。手でつまんで、いただく。濃厚なる、きのこの風味が口の中で広がります。普通の椎茸じゃないっす。

第2品目。焼きとうもろこしの冷たいスープ。絶品!!味わって、ふ〜〜とため息ついて、腕組みして、沈思黙考してしまった私。何、これ・・・

第3品目。フランスのどことやら産のオリーヴから特別な製法で作ったオリーヴ・オイルの上に、京都の山羊(ヤギじゃ)のミルクで作ったババロア。そのババロアの上に、これも特別なお塩を振って、ついでにマカデミア・ナッツのスライスを散らしたもの。ヤギのミルクって、すっごくサッパリしています。今まで経験したことのない味わいです。

第4品目。忘れた。なんか特別なネギがのったお魚を固めたような・・・どっかの特別な筍(たけのこ)も出たような・・・あの筍も美味だったな!

第5品目。車海老を開いたものの中に、ボタン海老が入ったタルタル。海老の中に海老・・・いいのだろうか。なにか悪趣味な感じが・・・自然な海老の味わいです!豊饒なる海の幸です!。ベースの車海老の身を、その殻からはがしていただくのに、ちょっと一苦労しました。身をはがしたあとの車海老の殻の赤色が鮮やかです。あの殻も食べることができたんじゃないかな。

第6品目。ブーダン・ノアールのタルトとフォアグラ。「ブーダン・ノアール」つーのは、豚の血液の腸詰(ちょうづめ)のことだそうです。リンゴと豚の血液の腸詰を重ねて焼いて、細長いタルトにしたものの上に、たっぷりした大きさのフォアグラが乗っています。これが、また絶品です!!フォアグラが、文字通り舌の上でとろけます。ブーダン・ノアールのタルトの味は、リンゴの酸味に豚の血液が固まって燻(いぶ)されたものの濃厚な味が重なって、わけのわからんリッチな味わいになっております。

語彙が不足している??私は、名古屋の「すがき家ラーメン」で育ったきに、そんな高級なもんを表現する言葉なんか、知りまへんどす。

以上までが前菜でございます。次からメイン・ディッシュ。

第7品目。魚料理。とてもとても、おいしかった〜〜〜♪なのに、内容を忘れています。真鯛だったか、スズキだったか、秋刀魚だったか・・・秋刀魚ってことはないよなあ・・・

第8品目。これが、もう〜〜おしいい!3時間かけてゆっくりローストされた鴨。鴨!鴨!鴨!シャラン産の鴨だそうです。シャランって、どこ?ローストされた鴨肉の赤色が、また美しい。ソースは、玉ねぎだったかな。思い出せない。

もちろん、このプロセスの間に、美味なるフランスパンと無塩バターは食べ放題。

第9品目からはデザートです。最初は、ココナツクリームの上にピスタチオ・オイルが重なり、その上にエスプレッソが乗っている、白と緑と茶色の配色が宝石のように美しいデザートです。ココナツの苦(にが)さの次に、ピスタチオの甘さが来て、次にエスプレッソの香ばしさが来ます。この3種類の味が、口の中で次から次に静かに炸裂します。これ、と・・・とんでもないです!!味の三段波状攻撃です。

第10品目。なんかのソルベ(シャーベット)です。 美味でした。しかし、内容を忘れました。

第11品目。キャラメルのギモーヴ。ギモーヴって何?生キャラメルが、細長くなったものと思ってください。マシュマロのことなのかな、ギモーヴって。ギズモの弟とか。

料理の説明は、ちゃんとホール・スタッフの方がしてくださるのに、なんで、知らないことは、ちゃんとその場で質問しないのかと、お思いの方もおられるでしょうが、私の脳のチップの記憶容量は、その程度なの!!質問したって、記憶できないの!!やはり、忘れるの!!

第12品目。メレンゲのアイスクリーム。ふわふわ、2口(くち)で消える淡雪のような。絶品です。そうとしかいいようがない。

はっきり言おう。ここまで、凝ることないわ・・・と思わせるような言語道断のデザートばかり。

第13品目。食後のお茶ですね。コーヒーとか紅茶のお茶うけとしての、けしの実をまぶしたホワイト・チョコレート。私は、エスプレッソ注文したな。このエスプレッソも、格別でした。

ここまで来ると、ほんとお腹いっぱいです。日本の懐石料理的に、少量ずつサーヴされる13のお料理でしたが、ひとつひとつがすごい!!味も、見た目も、すごい。うわ。

ところで、私は、食事中にOBから、3回も注意されました。

1回目が、OBが、「僕、フランス料理のフルコースって初めてなんです」と言ったときです。私は、思わず、「ええっ!!生まれて初めてのフランス料理のフルコースが、このお店?!初体験がここ!それは、初めての男が、ものすっごくゴージャスだった!みたいなもんだねえ!初めての女が、メチャクチャにいい女だった!みたいなもんだね!」と答えました。そしたら、OBが、左右を気にして、「先生、そういう話題を出すのは、ここでは、やめて下さい!」と、小さな声で、私をたしなめました。くそ。

2回目は、だいたいのお料理が終ったあたりで、私が、「このお店のお料理って、素晴らしいけれどもさあ、あなたねえ、自分のカネで、もう一度このお店に来たいと思う?」と質問したときです。OBは、言いにくそうに「僕は・・・もう、いいかなあ・・・」と、答えました。「そう!そこなんだよね、問題は!ねえ、何が問題だと思う??ここの何が問題だと思う?」と、私は質問しました。そしたら、そのOBは、またも小さな声で、「先生!そういう話は、今はしないの!あとで!」と言ったのであります。くそ。

3回目は、私が、「このお店は、フランク・ロイド・ライトの建物みたいなもんだよね。すごいんだよね。もうすごい才能なのよ!でも、ライトの設計した家って、必ずしも住みやすいものではなかったらしい。洗練も度が過ぎるとさあ・・・」と、言いかけたときでした。またも、OBは、小さな声で、「先生!あとで、あとで!今はダメ!」と、私の発言を遮(さえぎ)ったのでありました。くそ。

はあ・・・私は、小さな声で言ったつもりだったのでありますが・・・場所柄わきまえずに、何でも口に出してしまう悪癖が出てしまいました。反省。サルでもできる反省。

しかし!こんなこと書きましたが、「カンテサンス」は、最後まで素晴らしいレストランでした!

タクシーを呼んでもらい、テーブルで会計をすませて(service charge込みで、46000円ぐらい)、帰りの新幹線に間に合わないから早く出よう〜〜もう9時半近いぞ〜〜と急いでお店を出ようとしたときに、思いがけずに、私たちの目前に、天才シェフの岸田周三氏が、出現しました!ジャ〜〜ン!今宵のお客様にご挨拶をしに登場しました! 仰天しました! 本物です!

「ああ〜〜〜!!」と、思わず大きな声が出てしまいました。感激してしまって、私は、岸田氏の手を両手でむずっと掴んで握って離さず、何度も何度も上下に振ってしまいました。だって、テレビで見るよりも、うんと若々しい白皙(はくせき)の美青年だったもん。これが天才だ!!天才の顔だ!!なんという透明感に満ちた無垢な眼差し。ほんとに色白いな。

「どうでしたか?」と岸田氏は私に、静かな眼差しで、静かな声で、お尋ねになりました。もちろん料理について、です。

私は、あわてて、口走っていました。「いやあ、さっきも、この人と話していたんですけどお〜〜まるで、フランク・ロイド・ライトの建築の世界みたいだってえ〜〜何といいますかあ、もう全部が岸田さんの世界ですね〜〜予約を取るのが、ほんとおうに大変だったのですが、来た甲斐がありましたあ!ありがとうございましたあ!岸田さん、クレイジーですよお〜〜」と、わけのわからないことを、言っておりました。そうして、またちゃっかり、岸田氏の手を両手で握り、また何度も振りました。ははは。

180センチ(もっとある?)の身長の高さから、興奮して騒いでいる155センチの私を見下ろして、「また、オバハン、調子のいいこと言っちゃって・・・」と暗黙に告げている(らしき)OBの冷たい視線を、私は毅然(きぜん)として無視しました。うるせい。Don’t correct your teacher! オトナにはオトナの世界があるんだよ!どーいう世界か、知らんが。

シェフの岸田氏とソムリエの方(支配人?)は、私たちがタクシーに乗り込み、タクシーが発進し、見えなくなるまで、レストランの入り口で、お見送りしてくださいました。うわおお・・・なんというサーヴィス精神。

「ここまで凝ることないわさ・・・薀蓄(うんちく)が多すぎるわさ・・・食い物が、ここまで芸術になっちゃ退廃だわい・・・ここまで洗練させて、どーするんじゃ・・・too sophisticatedじゃ・・too elaborateじゃ。ひとつぐらい凡庸はないのか?フツーのもん、ひとつぐらい出せや・・・いちいち、びっくりさせられると、くたびれるだろーが・・・」と、ブツクサと湧き上がっていた私の心の中の悪態が、ぶっ飛びました。はい。

凡人は、天才の技に触れると、圧倒されてしまって、悪態がつきたくなるのでありますね。でも、ノックアウトされてしまっているからこその、悪態でありますのよ、ほほほ。

「カンテサンス」のお料理のすごいところは、時間が経つにつれて、何度も思い出してしまうってことです。あとを引くのよ・・・「なんか、とんでもないものを食べさせてもらったなあ・・・ひょっとして、私、とんでもないことを体験したのかなあ・・・」という感慨が出てくることです。

経験したことのない味って・・・濃密な空間と時間って・・・雑誌や映像でも見たことがないようなUFOに遭遇して、そのUFOの中に数時間入ってしまったかのような気分です。「あれは、いったい何だったのか・・・???」

う〜ん・・・次回は、人様(ひとさま)が成し遂げた快挙のお祝いではなく、私自身、自分自身が成し遂げたことのお祝いに、「カンテサンス」に行きたいものであります。

もう少しで乗り損(そこ)ねるところだった東京発新幹線下り最終、「午後10時発ひかり名古屋行き」の中で、私は、何度も、ため息をつきました。さきほどまで腰掛けていたレストランにおいて、つかのまの舌の快楽として過ぎてしまった「もろもろの驚き」を、もう一度感覚に蘇(よみがえ)らせるべく、私の心はあやしく悶え乱れていたのでありました。

時よ、止まれ、君は、おいしい。コンビニのおにぎりも、おいしいけどね。