アキラのランド節

『山陽新聞』備後版のコラム原稿です(その15)  [12/30/2014]


「ありのままか背伸びか」
2014年11月23日「山陽新聞」朝刊備後版(藤森コラム番号43)

福山市立大学では、毎年11月の大学祭の時に「英語プレゼンテイション・コンテスト」を開催する。第3回目の今年は、9組12人が参戦した。今の若い人は、本番に上がって実力が出せないということはない。本番にこそ、自分のベストを見せる。学生のプレゼンテイションから教員が学ぶことも多い。

今年の「コンテスト」では、3年の女子学生は、古今東西のトイレをパワーポイントで紹介しながら、トイレは文明と人間の道徳心の指標であるのだから、人類の進化とトイレの進化はシンクロしていると力説した。2年の男子学生は、水不足の危機への対処法として、具体的な食生活の改良法を提言した。

2年の女子学生は、同性愛者の結婚合法化は、現在の日本の国家予算の5パーセントである5兆円以上を稼ぎ出すビジネスチャンスであると述べた。別の2年女子学生は、ディズニーランドのシンデレラ城には、実際より大きく高く鮮やかに見えるようにヴィジュアル・イフェクト(視覚効果技術)が活用されていることを指摘し、美しいとは言い難い日本の都市の景観を、費用をかけずに美しくする可能性を示唆した。

ところで、毎年「コンテスト」の季節になると、指導にあたる日本人英語教員と外国人英語教員の間で意見の対立が起きる。外国人教員は、「英語力がないのだから、難しいことなど言おうと思わずに体験を語ればいい」と言う。「ありのまま」でいいと言う。

しかし、日本人教員は、大学生には「背伸び」をしてもらいたい。自分で調べたことや考えたことを整理し、何とか英語で表現してもらいたい。自分なりの提言をしてもらいたい。

今年も、日本人教員と外国人教員の意見は対立した。「コンテスト」の受賞者の審査においても、日本人審査員は知的に「背伸び」した学生を評価した。外国人教員は、海外体験を「ありのまま」に語った学生に高得点をつけた。来年も対立必至だろう。ありのままか、背伸びか?どちらも間違っていないので、悩ましい。

★このように綺麗事風に書いているが、楽屋裏は大変であった。この「英語プレゼンテイション・コンテスト」は予算も乏しく、学長から寄付もいただいてはいるが、ほとんどは私のポケットマネーで運営している。コンテスト前の数日は、夜遅くまで練習する。今年は、私の帰宅時間は午前1時(!)だった。

★それでも、年々歳々、ほんのちょっとずつではあるが進化している。

★ただし、コンテストの審査員は、私や、もうひとりの日本人同僚はしない。直接に指導した人間が審査員では、アンフェアになりがちだからだ。

★イギリス人の外国人教員は、自分がこっそり指導した学生ばかりを、強烈に受賞者としてプッシュする。私が出席しない審査委員会会議では、「もう審査なんてする必要ない。この子と、この子で決まりだ!!」と言い張るそうだ。私がいるところでは、あからさまにそういうことはしない。私は、決して外国人を甘やかさないから。

★日本人は心優しい。相手が外国人だろうが怒鳴りつけるような私のような乱暴な人間は、審査委員会にはいない。ということで、どう見ても最優秀賞候補者のプレゼンではなく、ばか丸出しのはプレゼンに賞が行ってしまった。

★今回は、私は怒った。審査委員長に謝られたって、遅いわ!! いい加減にしろ!!!

★というわけで、来年度の「英語プレゼンテイション・コンテスト」の審査委員としては、そのイギリス人同僚は排除する。文句があったら、自分でカネ出して、コンテストを開け!!なにが、「賞金なんかなくていい。コンテスト経験をしたこと自体がawardだ。それこそが報酬だ」だ。そーいう綺麗事を、よく50歳過ぎて言えるよな。そんな口だけ達者の偽善者ばかり輩出してきたのでは、かつての大英帝国も崩壊するんじゃ。



「七回読み勉強法」
2014年12月17日「山陽新聞」朝刊備後版 (藤森コラム44)

私には偏見がある。著者が何年もの研鑽を積んで書いた本を、平凡な人間が一度読んだくらいで理解できるはずがないという偏見が。漫画でさえ、一度読んだくらいでは、ほんとうは把握できないと、私は思う。

私は、英米文学を専攻し、大学で英米文学を教えていたのに、四八歳くらいから政治思想の勉強を始めた。法学部を出ていないので、最初はチンプンカンプンだった。理解できるようになるまで、繰り返し読むしかなかった。政治に関心を持てば、経済にも興味を持たざるをえない。しかし、財政や金融のことについても全くの無知だった。だから、これも繰り返し読んだ。ひたすら愚劣に一途に何度も読んだ。で、やっと少しずつ理解できるようになった。「日本文でも英文でも、何度も繰り返し読めば、わかるようになる!」というのが私の信念だ。

だから、たまたま、山口真由氏の『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』(PHP研究所、二〇一四)を、書店で見つけたときは嬉しかった。 山口氏は、東京大学で全優の成績を収めた。すでにして三年生の時に司法試験に合格した。四年生で、上級国家公務員試験に受かり、財務省のキャリアになった。山口氏は、東大総長に「どんなふうに勉強をしているのですか?」と質問されたときに、「七回読むだけです」と答え、驚かれた。小学生のころから、教科書はひたすら繰り返し読んできたそうだ。

まず、最初から最後までザザッと読む。理解できなくても構わない。次に、またザッと読む。これを三回読めば、まったく理解できなかった本でさえも、ぼんやりと脳に入ってくる。で、また繰り返し読む。七回読めば、理解できない本というのは、ないそうだ。

私は、この「7回読み勉強法」に似たような読書法を、遅ればせながら四八歳から始めたのだが、できれば小学校時代に知っておきたかった!理解できないとか、勉強ができないと言ってはいけない。そういうことは、七回読んでから言うべきなのだ。

★まあ、こういう、いかにも「学校の先生らしいネタ」が一番安全なようである。さて、来年は、何を書かせてもらおうかな〜〜やっと、この種のコラムの書き方を習得したなあ・・・と思う2014年の暮れでした!!