雑文
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アメリカで、アイン・ランド研究を反対されたけれど、でも私はやるんだの記(1)


私がランドに関心を持ち出したと話したら、私が1年間、客員研究員として所属していたGraduate Center, City University of New York(CUNY)のThe Center for the Study of Women and Societyに関係している教授たち(フェミニズム系の女性研究者がほとんどで、その分野ではよく知られた業績の多い方々である)は、一様に「なんで、また?」という反応を見せた。ユダヤ系の社会学の教授は、「あんなの資本主義擁護の右翼ではないか。あなたは、研究の方向を間違えている。」と断言したし、これもユダヤ系の政治学の教授は「なんでそんな時代遅れのものをするのか。リバータリアニズム?そんな例外的なものは私のクラスでは教えたこともないし、教える必要もない。」と言ったし、これもまたユダヤ系の比較文学兼英文学の教授は、「ああ、そう・・・?」と言って私の顔を眺め、それ以上は何も言わなかった。あらためてE-mailで質問しても、答えは返ってこなかった。私の同僚のUCバ−クレイ出身のユダヤ系の言語学のアメリカ人教授は、「君がランドに関心があるなんて意外だ。ランドはpro-capitalistで、カルトみたいな信奉者がいて、ああいうのがアメリカにあるのは恥ずかしいことだ。」とE-mailで答えてきた。

そうか。アイン・ランドは、資本主義擁護で右翼で時代遅れでカルトだから、研究に値しないのか。資本主義擁護だと、いけないのか。自分は資本主義社会の恩恵をこうむっているのに。ソ連と中国と、あともろもろで、人体実験してみて駄目だったのに、いまさら、本気で社会主義や共産主義社会を立ち上げるつもりなのか?ならば、なんでアメリカにいるのか?なんで日本に出稼ぎに来ているのか?社会主義とか共産主義とかは、近代市民革命の経験のないアジアやアジアみたいなとこでだけ実践された。アジアは、「つるんでしばりあうこと」によって共存する共同主義傾向=親奴隷傾向があるから、親社会主義的なエトスがあるから、アジアに住んでいるのか?住みやすいのか?とは、私は尋ねなかった。右翼って何だ?エリート軍人養成機関ウエストポイントの卒業式に来賓で祝辞を述べたから右翼なのか?「赤狩り」のとき、ハリウッド映画のソ連美化の映画について証言したから右翼なのか?事実を言っただけではないか。だって、それは事実だったもの。単に左翼でないと、右翼なのか?とは、やはり私は尋ねなかった。これらの方々は、みな1960年世代だ。もろ、文化左翼世代だ。こういう反応が出るのも無理はない。話した私が馬鹿だった。

私は、日本における正統アメリカ文学研究者には金輪際なれない頭であり学歴であるので、「研究に値しない作家などやって」学会のメインストリームから無視されたらどうしよう?という不安には縁がない。最初から外れているから関係ない。そのために職がなくなって食べていけないのならば、大いに困るけれど。でも「研究に値する」ってどういうことなのか?アメリカの学会で「正典」と御墨付きをもらっている作品や作家を研究することは、日本人にとって「研究に値する」ということなのか。属国の人間が宗主国の人間のやることに従って、宗主国の人間から「よしよし」と言われ是認されることは、名誉なことらしいけれども、普通に日本で生きていく普通の人間には、そんなもんメリットでも何でもない。私は、そんな金にもならないメリットのために「お勉強」できるほど、悠長な身分ではない。自分が生きて行くのに力にならないような作品の研究を優雅にしていられるような精神的余裕も物質的余裕もない。貧乏だもん。砂上の楼閣のような人生よ。いつだって徒手空拳で生きていかねばならないのだから、そういう自分の支えになるようなものでなければ時間もエネルギーも注げない。

ともかく、本当はわからないくせに、わかったような気になるレッテル張りは、どうでもいい。私は、ランドの作品を読んで得た感動を信じるだけだ。「これは、私が求めていたものだ!日本人は、この思想を知ったほうがいいんだ!」と感じた私の感受性を信じるだけだ。分析されない感動は、私を苛立たせる。そのためには、アリストテレスもハイエクもフリードマンもマルクスも読むよ。読む気になった。読めるのかな・・・?


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