論文
儲ける<女>
―Atlas Shruggedが寿ぐ美徳の産物としての貨幣―

はじめに

姦通を犯したからにせよ、父親の経済的無能のせいにせよ、伝統的な女のありようから逸脱せざるをえなくて、儲ける女はいる(The Scarlet LetterのHester に、Little WomenのJoe)。慎ましい貧しさに厭き、都会の贅沢な消費生活を享受したくて、女優となって儲ける女はいる(Sister CarrieのCaroline)。生来の旺盛な活力と貪欲さから、事業に乗り出し儲ける女はいる(Gone with the WindのScarlett)。世界や人間への絶対的憎悪のために、貨幣の蓄積以外に関心を持たず、売春宿を乗っ取って儲ける女はいる(East of EdenのKate)。しかし、彼女たちは、切羽詰って儲けているだけか、消費の手段として儲けているだけか、もしくは貨幣フェティシズムに陥っているだけだ。

筆者は、「資本主義のメッカ」アメリカ合衆国の女にふさわしい、儲けることそのもの、利潤追求や営利活動そのものの意義を明確に把握し実践する「儲ける女」に会いたいのであるが。そのような「儲ける女」として、本論では、Ayn Rand(1905-82)のAtlas Shrugged(1957)のヒロインDagny Taggartを紹介したい。Dagnyは、貨幣を人間の美徳の産物と認識し、貨幣の獲得を倫理的行為と確信して「儲ける」、筆者が知る限りアメリカ文学における唯一のヒロインである。であるからこそ、女であることの伝統的鬱屈から全く解放されている唯一のヒロインでもある。ちなみに、この小説は、1998年にRandom Houseの一部門Modern Libraryが実施した「(英語で書かれた)20世紀の小説ベスト100」の一般読者投票で、第1位に選ばれている(知識人が選んだ100冊には入らなかったが)。