書評    Almost Monthly Book Review
前へ戻る

■2002年4・5月に読んだ本から

大前研一 『サラリーマンIT道場』
小学館 2002.3 \1500


早くから大前氏は、ボーダレス化による国民国家の解体、それに対処できない中央集権政府の無能、中央集権だからこそ起きる官僚主導と彼らの税金の搾取、補助金=税金を地元に落とす事が期待される地方利権政治、淘汰されてしかるべきゾンビー産業を公的資金=税金で延命させる愚劣さ、これらの結果としての日本人の貧しさ等を告発し対策を提言してきた。この人は、アイン・ランドが『肩をすくめたアトラス』で描いた「企業家精神の塊」みたいな人だ。稼ぎすぎて、収入の85パーセントは税金でとられるらしいけれども。そういう立場はかっこいいなあ!税金払うってことは国や地方自治体に一番貢献しているってことよ。今の世界で何が起こっているのか、それが今の日本の雇用や産業の空洞化とどう関連があるのか、その概略は、この人の本から学べる。こういう読みやすいものから始めて、The Invisible Continent(Harper Business,2000)(翻訳『新・資本論』/東洋経済新報社/2001)に行くと、理解しやすいよね。この本は、実に知的にわくわくさせられた。 でもなあ、経済の計算だけから言えば、大前さんの言うとおりだと思うのだけど、政治というあまりに人間くさいものがからむと、こういう計算どおりにはいかなくなるよね。私は大前さんの昔からのファンなのだけれども、現実の世の中は、大前さんが考えている以上に、水準が低いのではないかなあ。でなければ、日本の政治家があんなに頭が悪くて教養がなくて下品な感じなのが説明がつかない。日本という国の人間の最大公約数が、あの政治家たちなのではないかなあ。ならば大前さんのヴィジョンはなかなか実現されないよなあ。副島隆彦氏が言うように、やはり日本は極東の土人で、黄色い猿だと思うよ。「人間」の数を増やさないとなあ、日本は。「人間」になりたいなあ。

ついでだから、これも読んだ。『サラリーマン・サバイバル』『サラリーマン・リカバリー』(どちらも小学館)。で、Book Offに売らなかったのは『新・資本論』だけ。この一冊が本体で、あとは別冊という感じかな。ともあれ、私は大前さんのヴィジョンは好きだし、結局は、その方向に行くと思っている。まだまだ時間はかかるけれども。


前へ戻る