書評    Almost Monthly Book Review
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■2002年6〜8月に読んだ本から

明野照葉
『女神』
光文社 2002.5 \1800


日本の小説や映画やテレビドラマでも、最近はやっと女のピカレスクものが出てきた。嬉しい。昔は、悪女=自分の望む人生を生きようとする女は、最終的には不幸になったり、男のために失敗したり、最後に殊勝にも改心したり、が常套だった。最近の悪女はしっかり生き残る。何よりも自分の欲望優先である。反省なんて無駄な努力はしない。この小説のヒロインも強烈な意志と実行力と自己管理力で、自分の望む生き方を遂行する。そのためには家族も捨てる。殺人も重ねる。孤独も引き受ける。

嬉しいのは、ヒロインを陰ながら応援するのが同性の女たちという設定。女の足をひっぱる女という設定が好きなのは、男の作家に、男に媚びた女の作家だけだよ。女の作家ならば、意地でも女の連帯を書け!ってんだ。頭の悪い気の小さい男の真似して喜んでいる女になるなんてことは、実に卑しいことだ。

ただし、ヒロインの可哀相な過去が、ああいう生き方の原因だった・・・という「謎解き」に関する記述が雑なのが残念です。冷酷だろうが反道徳的であろうが、自分を肯定して進むことにした不屈の女の説得力ある内面描写まで、大衆小説に求めるのは無理なんだよね。大衆娯楽小説の限界よね。う〜ん、大衆娯楽小説にして、純文学並みの納得できる人物造形ができている小説が読みたい!アイン・ランドの小説は、実はそういう小説なんです・・・


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