書評    Almost Monthly Book Review
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■2003年1〜2月に読んだ本から

ルイス・オーキンクロス 越智道雄訳
『WASPの流儀』
扶桑社 2002.8 \2095


私は、未知なる世界への覗き趣味を満足させる小説が好きだ。日本人にとっての、アメリカの未知なる世界のひとつとは、英国系プロテスタント白人=ワスプ(WASP)の生活と意見である。この人々は、日本人留学生など相手にしない。日本に英会話教えに来ない。日本人と結婚するなんてことも、まずない。だいたい外国とか外国人に、全く関心がないという自足した人々ですので。世界支配とかに強い志向を持つほど「ひどい歴史的体験」もないからね。ユダヤ・エリートたちとはまた違った人々なんだな。

この短編集の作者も正真正銘のWASP。弁護士だったそうだ。WASPは、ユダヤ系や他のマイノリティの人々の攻勢と正義など百も承知で、既得権益を守りつつ、罪悪感をねじ伏せて、慈善活動にいそしんで、アメリカを運営する。短編に描かれるのは、確信犯的強者だけが貫徹できる生き方の諸相と、落ちこぼれWASPの鬱屈である。失うものがいっぱいある人々の自己抑制と自覚的偽善と、自己憐憫など許さない誇り高さって、いいなあ。越智道雄『ワスプ(WASP)』中公新書も、ついでに読むといいです。ところで、あなたWASPって会ったことあります?


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