Anthem(1938)全訳
アイン・ランド作/藤森かよこ訳『アンセム』

第三章

我々<平等七の二五二一号>は、自然の新しい力を発見したばかりだ。それを、独力で発見したのだ。我々ひとりだけが、それを知っている。

それは、ここに明言される。やむをえない場合は、鞭でうたれてもいい。そうしよう。<学識びと協議会>は断言したことがある。我々人間はすべてのことを知っている、だから未だ知られていないことなど存在しない、と。しかし、<学識びと協議会>は何も見えていないのだと、我々は思う。この地球の秘密は、すべての人間が目にすることができるものではないのだ。それらを探求する人間だけに見えるものなのだ。我々には、それがわかる。なぜならば、我らが兄弟たちの知らない秘密を、我々は発見したのだから。

この力が何であり、どこから生じているのかは、わからない。しかし、その本質はわかる。我々は、それを見守り、それを使用して作業した。我々がそれを生まれて初めて見たのは二年前のことだった。ある晩、我々は死んだ蛙の体を切開していた。そのとき、片方の足が痙攣するのを見た。その蛙は確かに死んでいたのに、その体が動いた。人間には未知な何らかの力が、蛙の足を動かしていた。我々には理解しがたかったが、それから何回も実験を重ねて、解答を発見した。蛙は銅線でぶらさげられていたのだが、塩水処理してある蛙の死体を通って、銅線に不思議な力を伝えたのは、我々が切開に使用した金属だったのだ。我々は、銅の破片と亜鉛の破片を塩水がはいったびんの中に入れた。それから針金を、その水に触れさせた。我々の指の下で、奇跡が起きた。前には決して起きたことがない奇跡だ。新しい奇跡。新しい力。

この発見は、我々を夢中にさせた。他の研究はうっちゃって、我々はこのことだけに従事した。その力で作業をし、それを試した。ここに書けないほど多くのいろいろなやり方で試した。それぞれの段階が、我々の目の前のヴェールを剥ぐ新たな奇跡だった。我々は、やっと認識できるようになった。我々は、この地上における最大の力を発見したのだと。なんとなれば、それは、それまで人間が知っていたあらゆる法則を拒むものだったから。我々が<学識びとの館>で盗んできた針やコンパスを、その力は動かし回転させた。まだ子どもの頃、我々はこう教えられた。磁石は北を指す。これは何物も変えることのできない法則である、と。しかし、我々が見つけた新しい力は、すべての法則を拒む。その力が稲妻の原因となるのだと、我々は発見した。何が稲妻を起こすのか、誰も知らなかったのに。激しい雷雨のとき、我々は例の我々が入り込んだあの穴のそばに鉄の高い棒を立てて、それを下から観察した。稲妻が、その棒を何度も何度も打つのを、我々は目撃した。そして、今や次のことが判明したのだ。金属は空の力を引き寄せる。金属は、その力を発生させるために使用されうる、と。

我々は、この発見をもとに、不思議なものをいくつか造った。そのために、この地下で見つけた銅線を活用した。我々は、前にこの地下にあるトンネル全部を歩いたことがある。蝋燭をつけて歩いたのである。しかし、半マイル以上は先に行けなかった。地面と岩が、トンネルの両端をふさいでいたからである。しかし、その道程で見つけた事物をみな集めて、作業場に持ち込むことはできた。中に金属の棒がはいった奇妙な箱もいくつか発見した。たくさんの金属製のコードと糸と、これも金属が螺旋状に巻いたものが入っている箱である。我々は、壁についたガラスの奇妙な球につながる針金も見つけた。その球の中には、蜘蛛の巣より薄い金属の糸が入っていた。

これらの物が、我々の作業をやりやすくしてくれた。それらが何なのか我々にはわからないのだが、<語られざる時代>の人々は、我々が発見した空の力を知っていたのだし、これらの箱や針金やガラスの球は、その力に関係するものだということは、推測がつく。まだ今の我々にはわからない。しかし、きっと我々はそれが何であるか学ぶだろう。もはや我々はやめることができない。この我々が得た知識は、我々しか知らないのだということが、我々を震撼させるとしても。

すべての人間によって、そのすべての人間の知恵によって選ばれた多くの<学識びと>よりも偉大な知恵を所有する人間など存在しない。なのに、我々には可能なのだ。我々は、その偉大な知恵を所有している。こう言い切ってしまうことに、我々は抵抗を感じる。こんなことを言っていいのかと心に葛藤が残る。しかし、それは、今こうして明言される。もう、我々にとってはどうでもいい。もうすべての人間のことも、すべての法則のことも、我々の持つこの金属と針金以外の何もかもすべて、忘れる。まだまだ学ばなければならないことがいっぱいある!我々の前にある道は実に実に長い。たったひとりぼっちで、この道を行くことになろうと、何を気にかけることがあろうか?