Anthem(1938)全訳 |
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第四章何日も何日も過ぎた。ふたたび、あの<金色のひと>に話しかけることができるまで何日も何日も過ぎた。しかし、太陽が白くなる日がやって来た。太陽が破裂して、大気中に炎を広げ、畑もじっと動けず息もできず、道路に舞い上がる埃も、その熱とほてりの中で白くなる、そんな炎暑の日がやって来た。畑で働く女たちは、暑さで疲れ、作業ものろのろ遅れがちで、我々が道路清掃にやって来たときには、彼女たちは道路からかなり離れた地点にいた。しかし、<金色のひと>だけが垣根のところでひとり立ち、待っていた。我々は立ち止まり、彼女たちの瞳を見る。世界に対して硬くなで軽蔑に満ちた彼女たちの瞳は、我々が口にするどんな言葉にも従おうとするかのように、じっと我々を見つめている。 我々は言う。 「我々は、君たちに名前をつけたよ、<自由五の三〇〇〇号>。我々が考えた名前なんだ」 「何という名前でしょうか?」と、彼女たちは訊ねる。 「<金色のひと>」 「私たちもあなたたちのことを考えるとき、あなたたちを<平等七の二五二一号>とは呼びません」 「どんな名前を、君たちは我々につけたの?」 彼女たちは、まっすぐ我々を見つめて、頭を堂々と高く上げて、こう答える。 「<征服されざるもの>」 長い間、我々は口を開くことができない。やっと答える。 「そのようなことを考えてはいけない。禁じられているよ、<金色のひと>」 「でも、あなたたちはそのようなことを考えていらっしゃるのでしょう。あなたたちは、私たちがそのようなことを考えるのを、望んでいらっしゃる」 我々は彼女たちの目をみつめる。嘘が言えない。 「そうだね」と、我々は小さな声で言う。彼女たちの顔に微笑が浮かぶ。それから我々は言う。「ねえ、我らの一番愛しいひと、君たちは我々に従ったりしちゃあいけない」と。 彼女たちは後ずさりする。彼女たちの目が見開かれ、その瞳が動きを止める。 「もう一度、その言葉を言って下さる?」と、彼女たちはささやく。 「どの言葉を?」と、我々は訊ねる。しかし、彼女たちは答えない。だから、我々は、その言葉が何であるか、気がつく。 「我らの一番愛しいひと」と、我々はささやく。 こんなことを女たちに言った男などいなかったのだ。 <金色のひと>の頭が、ゆっくりお辞儀するようにたれる。彼女たちは、我々の前でじっと立ちつくす。両腕は脇に下ろしている。彼女たちの体が、我々の眼に従属の意志を伝えるかのように、彼女たちの手のひらは我々に向かって開いている。我々は、口を開くことができない。 それからやっと、彼女たちは頭を上げて、飾り気なく、穏やかに言う。彼女たち自身の不安を忘れたいかのように。 「今日は暑いわ。あなたたちは何時間も働いていらっしゃるのだから、お疲れでしょう」と、言う。 「疲れてなどいないよ」と、我々は答える。 「畑はもっと涼しいわ。飲み水もあります。喉は渇いていません?」と、彼女たちは言う。 「乾いているよ。でも垣根を越えることはできないから」と、我々は答える。 「お水をお持ちいたしましょう」と、彼女たちは答える。 それから彼女たちは堀のそばに跪く。両の手で堀から水を掬い、立ち上がり、その水を我々の唇に持ってくる。 その水を飲んだのかどうか我々ははっきり意識できなかった。ただ、そのとき突然に我々は知った。彼女たちの手の中には何もないということを。我々は、ただ彼女たちの手の中に我々の唇をつけたままでいる。彼女たちにも、それはわかっている。しかし、彼女たちは身動きしない。 我々は頭を上げて、後ずさりする。どうして我々はこういうことをしてしまったのか、わからなかったから。その理由を理解することが、我々には恐ろしくもはあったから。 それから<金色のひと>は一歩退いて、不思議なものを見るようなまなざしで、自分たちの手を見つめる。それから、<金色のひと>は、誰かが近寄ってきたわけでもないのに、我々が立たずむ垣根から離れる。後ずさりしながら離れる。まるで我々から体をそむけることができないかのように。彼女たちの両腕は胸の前で曲げられている。手を下に降ろすことができないかのように。 |
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